児童性的虐待、泣き寝入りを生む「沈黙の壁」 パレスチナ

【6月3日 AFP】パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)に住むファトマさん(30)一家の生活は、11歳の長男が性的暴行を受けて以来、悪夢と化した。事件により家族全員が深い傷を負い、転居も余儀なくされたという。

 7児の母であるファトマさんは、長男の身元が特定されないよう仮名でAFPの取材に応じ、「ある晩、息子が遅く帰ってきた。明らかに様子がおかしかった」と当時について語った。

 帰宅した長男は、遠戚の男と近くに住む男の2人組に人里離れた家に連れて行かれ、服を脱がされた上に、パソコンでポルノ動画を見せられたと話し、そして逃げようとしたが捕まったと打ち明けた。これを聞いたファトマさんは、直ちに警察に通報し、20代の男2人が逮捕された。

 保守的なガザ地区では、タブー視される問題について声を上げる犠牲者は少ない。それでもファトマさん一家は裁判を起こした。容疑者の1人は収監されたが、もう1人はすぐ釈放された。

 その後、ファトマさん一家は、恥の壁、沈黙の壁に直面することになった。

「私たちは持っているお金を全部使って引っ越した。私は苦痛のあまり病気になり、子どもたちも間接的な影響を受けた」と、彼女は「民主主義と紛争解決のためのパレスチナセンター(PCDCR)」が運営する支援施設で語った。

■「恥の文化」

 同センターで心のケアを担当するアスマ・サウド(Asma Saud)氏は、こういった性的暴行が「横行しているにもかかわらず、伝統の重みと恥の文化によって隠されている」と説明する。

 ガザ社会では、昔から伝統が大きな役割を担ってきたが、2006年の選挙でイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)が勝利し、世俗主義の対抗勢力ファタハ(Fatah)と激しく衝突して同地区を単独で実効支配するようになって以来、その傾向はさらに強まった。

 PCDCRの調査によると、ガザ地区とヨルダン川西岸(West Bank)で調査対象期間中に性的暴行被害が確認された子ども693人のうち75%以上が、加害者と顔見知りだったという。

 8児の母で、6歳の娘が性的ないたずらを受けたというマハシム(Mahassim)さん(48)は、暴行に及んだのが娘の通う学校の職員だったと把握している。

 マハシムさんは訴え出たが、仲裁を申し出た第三者から、裁判沙汰にしないよう圧力を受けた。「慈悲の心を示して訴えを取り下げるよう諭された」というのだ。

 PCDCRのイヤド・アブ・ジャイエ(Iyad Abu Hjayer)副代表によれば、センターが対応に当たっている693件のうち、裁判を起こしたのは22家族だけで、しかも最終的にはほとんどが訴えを取り下げたという。ジャイエ副代表は、ガザ地区の「学校と家庭」における真の性教育の必要性を訴えている。(c)AFP/Sakher Abou El Oun
http://www.afpbb.com/articles/-/3089233