趣味や性癖を罰しようとするな

 愛知県の男性会社員(30)が、児童ポルノの単純書着容疑で書類送検された。(*1)

 元々、この容疑者はグーグルマップの原爆ドームを「恒心教 核実験場」としたり、出雲大社を「出雲極限修行サティアン」などと書き換えをしていた容疑で書類送検され、その過程でPCなどが押収されていた。(*2)

 今回はこの押収されたPCから児童ポルノを含む大量のエロ動画や画像が出てきたことで、30歳の男性会社員が、こちらの容疑でも書類送検となった形である。

 この事件だけを見れば「押収したPCから児童ポルノ動画が発見された」という、どこにでもありそうな事件に過ぎないのだが、問題はこの事件の「押収品」にある。

 捜査にあたっている愛宕警察署が、この事件にまつわる押収品を公開したのだが、地図の書き換えや児童ポルノが保管されていたであろうPCなどに混じって、なぜか数点のフィギュアが並べられていたのである。(*3)

 たとえば、同じ場所に「巨人のユニフォーム」があったとしたら違和感を感じるはずである。もちろん巨人のユニフォームを着て犯行を行ったのであれば並べられていてもおかしくないが、少なくとも「巨人のユニフォームが犯人の部屋にあった」からといって、それが押収されるのもおかしければ、押収品として並べられて公表されるのもおかしいだろう。たとえ犯人が巨人ファンだったからといって、そのことと犯罪は関係ないことが明らかなのだから。

 フィギュアも全く同じである。そもそもこの件で裁かれているのは犯人の性癖そのものではなく、児童ポルノを所持していたことである。少なくとも現在の日本には誰かの性癖を裁く法律は存在しないし、フィギュアと性癖の関係性も不明である。

 この事件はまだ操作中であり、もしかしたらこうしたフィギュアが何らかの犯行に関わったという可能性も否定はできないが、少なくとも地図の書き換えと児童ポルノの単純所持。そのどちらにおいても関係があるとはにわかに考えにくい。

 かつて、連続幼女殺害事件の犯人であった宮崎勤の部屋が公開された時、マスコミは「いかにも変質者らしい部屋」を作るために、積み上げられていた雑誌の一番上に、エロ本をおいて撮影を行った。

 また、実際にはテレビのドラマや映画など、雑多な作品が録画されていたビデオの内容が、さもアニメやホラーばかりであるかのように報じられ、その後のアニメやホラー作品に対するバッシングにつながっていった。

 また、宮崎勤事件との類似性が指摘された奈良の幼女殺害事件の犯人であった小林薫に対しても、ジャーナリストの大谷昭宏が「フィギュア萌え族(仮)」という造語を用いて、犯人の異常性を暴露しようとしたが、実際に犯人が逮捕されてもフィギュアのようなものは一切出てこなかった。

 このように、宮崎勤事件以降、女児にまつわる事件においては必ずと言っていいほど容疑者のオタク性が犯罪と関係があるかのような偏見が垂れ流されては否定されてきた。

 しかし、だからといって問題が解決したわけではない。なぜなら、大半の事件は報じられた時には注目されていても、すぐにみんなその細かなディテールを忘れてしまうからだ。しかしその一方で、その時に報じられたことの「印象」は意外と覚えているものである。

 はるか昔、テレビで流れていた名前も知らない歌のメロディが、つい口から出てしまい「あれ?この曲なんだっけ?」と思い出すように、人々の記憶には、ただ「オタクが女の子を殺した事件があった」「オタクが児童ポルノを収集していた」という絵の印象だけは強く刻まれてしまう。

 今回も、ああした形で関係ない押収物を展示することで、事件の内容は忘れてしまっても、パソコンとフィギュアが並んだ絵を覚える人が居るかもしれない。そして細かなディテールの抜け落ちたふわっとした記憶は、やがてオタク的なものに対する差別を産むかもしれないのだ。

 今回はそうした差別的な問題が発生しそうなことを、警察が率先して行ったことが問題である。

 繰り返すが、児童ポルノ問題で罰せられるのは、実際に子供が性的に搾取されていること自体であり、決して犯人の趣味や性癖ではない。警察や事件を報じるメディアは、そのことを肝に命じるべきなのである。
http://blogos.com/article/163394/